掲載日:2022年3月14日(月)
開催日:2022年1月17日(月)
レポート
セミナー

2022年1月17日。コワーキングスペースで、「デジタル技術を活用したビジネスイノベーションセミナー」を開催しました。登壇者は日本初のハイブリッドバイク(自転車と電動バイクの切り替えができる)を開発した、 glafit株式会社の代表取締役CEO 鳴海禎造氏です。「和歌山発 21世紀のHONDAを目指して ~モビリティの新ジャンルを切り拓く~」と題して、ご自身の起業家としての歩みをお話しくださいました。
高校時代に初めての商売をスタート ~ユーザーの手間を省くことが商売になることを覚える~

初めて商売を始めたのは高校生の時でした。1985年のことです。当時通っていた高校はアルバイト禁止。でもお洒落はしたい。服が欲しい。そこで、学生にできるお金の稼ぎ方を考えました。それが個人間取引を利用したアパレルの売買です。自分の好きな服を仕入れ、仕入れた値段より高く売る、個人売買情報誌を使った商売でした。 その後、パソコン、車とご自身の興味に合わせて、異なる商売を立ち上げていきます。1999年頃からでしょうか。パソコンが組み立てたいから、用途に合わせてオリジナルパソコンを組み立てる商売を始める。車を改造したいから、車のパーツを売る商売を始める。自分がやりたいことをやっているようですが、同時に、同じ悩みを持っているユーザーの課題解決をしていることに気づきます。この経験から、ユーザーの手間を省いてあげることは商売になることを肌感覚で覚えていきまました。
大学卒業後すぐに起業、商売の難しさを知る ~変化に合わせて事業の形を変える~
大学卒業後は、自動車販売店を起業します。インターネットでの車販売でした。2003年頃です。当時はインターネット黎明期。周りからは「無理」と言われましたが、これがうまくいった。売り上げは1億円を突破し、4名体制まで成長しました。 ところが取引先が倒産し、売掛金の回収が困難となります。相手方はお金では返済できない。その代り、その会社のエンジニア2名が2か月間働いてくれることになりました。ただ働きです。その二人は当社の社員となり、その後モビリティ(glafit)を開発することになります。しかしそれは後年の話です。 当時はそれどころではありません。借金返済のために事業拡大しました。2008年のことです。車の販売を海外に広げました。考え方はとてもシンプル。自分たちはインターネットを使って商売をしている。インターネットは海外にもつながっている。それならばホームページを英語に翻訳すれば、海外とも取引ができるのではないか。そう考えたのです。 これも周りからは「無理」と言われました。でも、うまくいったのです。現業の傍ら、月20台は販売できました。ところが事件は起きたのです。貿易の会社を立ち上げて、2か月後のことでした。リーマン・ショックです。為替相場が激変し、輸出は絶望的になりました。仕方がない。数日後には頭を切り替え、輸入業に転じていきます。中国で起業し、部品の輸入販売(中国→日本)を始めます。
人生の転機 ~一冊の本がきっかけで経営に目覚める~
2011年のことです。一冊の本に感銘を受け、経営に目覚めることになります。本のタイトルは「The 決断 決断で人生を変えていくたった一つの方法」(大久保秀夫著)。自分の今までの経営を見直す必要を強烈に感じ、著者の大久保氏に弟子入りします。指導をうけること3年。経営に目覚めていきます。儲けるために事業をするのではない。何のためにその事業をするのか。なぜ自分たちがするのか。徹底的に向き合いました。3年という指導期間の中、その半分以上の時間を費やし、考えたと思います。結果、「人々の生活にFITする、楽しい移動をお届けしたい!」という思いにたどりつきます。車のメーカーになりたい。なろう、「glafit」を社名にしよう、と決めました。2012年のことです。
新規事業の決断 ~和歌山から21世紀型のHONDAを目指す~
早速、車づくりに着手したものの、これが難しい。車の構造は複雑、精密で、モノづくりのハードルがとても高いものでした。そこで他社の歴史、自動車メーカーを参考にします。どこも最初から車を作っていたわけではありませんでした。例えばHONDAです。自転車にエンジンをつけた自転車バイクづくりから始めていました。「漕がなくていい自転車」です。もはや自転車ではありませんね。このジャンルを「ハイブリッドバイク」と名付けて、自分たちも挑戦することにしました。 しかし、思いだけで事業をスタートするのは危険です。大きな投資をして失敗するリスクは避けたい。どうしたら避けられるか。そこで僕らはクラウドファンディングを使ってローンチする手法をとることにしました。いいね、と思われてもお金を払ってくれないのであれば、事業として成立しません。そのジャッジを世に問うことにしたのです。
glafit誕生 ~業務提携で販路・技術開発力・生産力をつけていく~


結果は、すごいことになりました。クラウドファンディングプロジェクト開始から約3時間で目標金額300万円を達成。約3日で約4500万円に到達。約2か月で支援額1億2800万円を達成。これがどうやら日本一のクラウドファンディングということで、話題になりました。
事業として成立することが証明されましたので、株式会社を設立しました。2017年のことです。その後、2019年にはオートバックス、ヤマハ発動機、パナソニック、NORITSU PRECISIONと業務提携を行い、販路、技術開発、生産ラインを整え、かつ和歌山県・和歌山市の協力も取り付けることができました。結果、最初のモデルの累計出荷台数は約5000台となりました。
2020年、新しい企画を立ち上げます。ハイブリッドバイク(GFR)と並行して、面白さにより振り切ったもの、ということで今度は「キックしないキックボード」です。もはやキックボードではありませんね。「クロススクーター」という名前で「LOM X-SCOOTER」というモビリティを試作開発します。2020年1月にアメリカのラスベガスで発表すると海外から大きな反響をもらいました。そこでグローバル展開を予定していたのですが、新型コロナです。海外展開はあきらめ、もう一度国内に目を向けました。
新しい試作品をクラウドファンディングで世に問うたのです。結果は154,983,400円を調達しました。クラウドファンディング初の2連続1億円超えです。
法律変更へのチャレンジ ~モビリティで生活をアップデートしたい~
新しいモビリティは市場には受け入れられました。問題は法律です。べダルがついている自転車型バイクは、電源offでペダル走行していても、常に原付(バイク)扱いなってしまいます。本当は、電池がなくなってもペダル走行できる便利な乗り物なのに、法律は自転車走行を許してくれません。これは法律を調整した方がいいのではないかということで、動きました。2018年6月、国の新制度「規制のサンドボックス制度」を活用し、車両区分に「原動機付自転車」という認可を得るための活動を始めたのです。
1年後、モビリティ分野として初認定されました。このときのポイントは、自治体との共同申請でしょうか。後にも先にも、まだこうしたケースはないそうです。和歌山市と共同申請しました。ここから自転車モードでの走行検証、実証試験をスタートさせます。
警察から走行モード(自転車かバイクか)の見極めが問題と指摘され、表示機能を提案します。ランプ表示、文字表示、いろいろ考えました。結果、ナンバープレートを工夫しました。バイク(原付)モードでの走行時はナンバープレートが見えるて、通電する。自転車モードでの走行時は、ナンバープレートにカバーをして自転車のピクトグラムを表示し、通電しないことを実現しました。
結果、軽車両(自転車)と自動車を行き来する、原動機付自転車という新しい区分が初めて認可されたのです。大きな事例だと思います。
原付の車両所管は国交省。自転車の車両所管は経産省。道路上で走るのは警察署。ナンバープレートは総務省。取締後、検挙されたら法務省。これらすべての省庁を説得しました。次の法改正で、状態が変化するモビリティについて表現されることになりました。今後を見据えてです。



経験の積み上げが、判断する力を培う

失敗を恐れずに乗り越えていく力は、知識武装ではなく、自分自身の経験の積み上げからくることを実感しています。経営していると、逃げられない決断を迫られる時がありますこの大きな決断をするときに、人から聞いた話や、頭で得た知識からでは判断に迷います。自身の経験をベースに考えて判断したときに、うまくいくことが多いと実感しています。
振り返ってみると、自分ひとりでできることはほとんどありません。ただ、仕事を通じて実現したい夢(ビジョン)があるのです。簡単にはあきらめない強い想い、夢(ビジョン)を自分の中に育てること。それを一人でも多くの仲間と共有すること。これができれば、ほとんどどんなことでも実現できると思っています。

【講演者】
glafit株式会社
代表取締役CEO
鳴海 禎造氏
【略歴】
和歌山市出身。関西外国語大学卒業。学生の傍ら15歳のときから商売を始め、2003年カーショップ「RMガレージ」を個人創業。2007年に自動車輸出入業「FINE TRADING JAPAN」を個人創業し、翌年に法人化。2010年には中国広東省と香港に現地法人を設立。2012年、日本を代表する乗り物メーカーを目指すべく、自社ブランド「glafit」を立ち上げ。2017年8月、1億2,800万というクラウ ドファンディングによる資金調達額 日本最高記録を達成。NHK、日本経済新聞をはじめ数々のメディアに取り上げられ注目を浴びる。2017年9月にglafit株式会社を設立し、代表取締役CEO就任。2018年1月には日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞 日経MJ賞を受賞。