R03(2021)年度
陶芸学科
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『還暦祝いの器』
祝の宴を演出する様々な形状の皿、鉢、碗。なんていう名称がいいのかな、どう使ってみようかな。いろんなふうに想像力を刺激されます。板皿、刺身皿、ステム杯、豆蓋物薬味入、ふっくら片口、カップ、向付、湯呑茶碗+茶托、蒸し碗、寿司盛台、酒器。なかでも最も印象的なのが“三(さん)弁(べん)の花(はな)”器(き)ですね。三弁の張りある立ち上がり方が心地いいですね。瓢形に丸文の小皿を付けたようにも見えます。丸い小皿が二つ重なった形の皿も面白い。ステム杯の見込みにも銀を瓢形に抜いて丸文が表わされているのにオヤっと注目させられます。
驚くのはこれだけバラエティーに富んだ器形を作りながら、フォルムの統一感が全く損なわれていないことです。現代に通ずるセットの食器の最も大事なことだと思います。観る者が心地よく心を解放できるのはそんな器です。もちろんそれには黒、グレー、それに画竜点睛の如き銀色の配置。抑えられた瀟洒な色感が大きく与っていることも重要なことです。
笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治
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『生長』
有機体が変化し生長していくイメージ。垂れ下がり、上に伸び、横に広がる。もう一つ気付かされるのは、その形の感覚が土という素材の物質的性質に由来する存在態様のイメージに限りなく近いということです。
ここが工芸的な表現のおいしい秘密です。素材を限定して始まる工芸的造形には「素材が喚起する形」というイメージが常にまとわりつきます。それは現代美術やモダンデザインには決してないことで、工芸的造形の特権的世界です。その特権と作者の「形の意識」が出会い、結びつき、反発し合い、やがて融合していきます。決定的なのはこの「形の意識」です。
この作品は、氷山が長い時間を経て遂に水面に一角を出すように、「形の意識」が現代に通ずる取っ掛かりを掴んだ、そんな意欲がよく表れています。垂れ下がりをもっとブクブクッと膨らませたり、上へ上へと上げてみたり。「土から陶へ」の造形の限界に挑戦することが大事です。そんな限りない可能性に乾杯!!
*Caution!「氷山の一角」をいい意味で用いています。
笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治