R02(2020)年度

陶芸学科

『omou』

佐々木 玲美 Remi Sasaki(陶芸学科4期生)

2020年度 課題制作部門 卒業制作賞

「上へとまるく伸びたフォルムをもつかたち」と「コロンとした曲線を描くかたち」。二種の形の花器、一輪挿しである。
上にまるく伸びた方は、水滴が水面に落ちて跳ね飛んだ瞬間のスローモーション映像を想わせるような形。それをさらに形象化した観がある。かつて視覚を過った、或は心象風景に影のように一瞬浮かんだ形を捉えたセンスのよさが光る。
コロンとした方は、何か語りかけてくるような雰囲気。空豆の口にちょっと似ている。空豆がおしゃべりなのは夙に有名。とてもユーモラスな形である。
「想いにはそれぞれかたちがある。」
全く異なる雰囲気を持つ二つの形。いろんな想いを届けられそうな予感。さてどんな花を贈ろうか❣

笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治

『ヒト―困』

佐々木 玲美 Remi Sasaki(陶芸学科4期生)

2020年度 自主制作部門 卒業制作賞

人の形象を「嬉」「哀」「困」の三つの言葉で捉えた三連作の一つである。ほぼ正三角形の形を基本に、底辺の左右の頂点を変化させたユニークな形を作り出す。黄色く賦彩された方は子ぎつねの尻尾のようなモコっとした紡錘形を呈し、白色の方は全体にやや湾曲した先の尖った形とする。基本の三角形全体が一点から張り出してくるようにふっくらとした形を呈し、紡錘形、尖形にもそれが行き渡り、しなやかな心地よいフォルムを作り出している。
ハタと止まり、首をうな垂れているようにも見える。或いはうな垂れて、髪が前に垂れたのかもしれない。あくまで黄色を中心に考えた場合である。逆に白色部を正面にすると、鼻先を曲げて「ムムッ」と動きを止めてしまったようである。作者は「困」っているのだが、観る方は色々楽しめる。それはアイデアと土の構築のプロセスと、陶芸(ないし工芸)を構成する二大要素があって、それがのびやかな共存関係を保っているからである。形が面白いのと、土の構築の形が面白いのと、二つが重なり、融合しているからである。

笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治

研究科

『i「ノーマ」』

柳 星太 Seita Yanagi(研究科5期生)

2020年度 研究科優秀制作賞

アイデアと技法の相克。素材の限定を出発点にする陶芸(ないし工芸)は、端から制約を背負う。制約が制約のままでは「表現」は成立しない。「制約があるからこそ出てくる形」が思考されてこそ初めて工芸的造形の「表現」が成立する。
陶芸では通常あり得ない輪を繋いでいくという発想で始めた造形を、一年前の陶芸学科卒制で形にし、今回はそれ以上に一連の技術的工程を様々に工夫、克服し、いわば「輪繋技法」を一つの手法まで高めた。つまりアイデアが技法を超えて表現が進化し、見事に現代に通ずるカッコいい形を作り出した。
とくに地付きから最も高く立ち上げられた真正面から見ると「8の字」を呈する形が今回の作品のハイライトで、様々に変化する輪繋ぎの複雑な絡みの全てを従えて先導しているかのようである。堂々たる存在感を発している。
「i」は虚数の単位で、2乗すると「-1」になるという「想像上の数」(imaginary numberのi)。もともと個数や順番を表す抽象的な概念であるはずの数字が、具象どころか抽象的概念も無化されて一切の大きさを持たない虚数。ある意味では仏教的な「空虚」とも通ずる。それはまた輪繋ぎで作られた空洞にも重なるのである。「i」は「愛」とのダブルミーニングでもある。それが作者の分身たる「ノーマ」である。

笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治