R01(2019)年度

陶芸学科

『とおくの森のサーカステント』

波多野 杏奈 Anna Hatano(陶芸学科3期生)

2019年度 課題制作部門 卒業制作賞

輪形のスタンドに両サイドに口の有るポットが掛けられ、それぞれ口の下にはカップとソーサーが置かれる。ポットの蓋はテント形。カップは赤い鼻と涙マークが付けられたピエロ形。なるほどサーカスの役者がそろっている。取手棒の両サイドに差し込まれたステッキを傾けてお茶を注ぎ、一緒に飲み合うことができる。飲むとうさぎの耳が生える茶碗があったが、これは飲むと一瞬ピエロになれる。アリスの国にできそうなふっくらしたポット、先がやや尖がったカップの形がカッコいい。抑えられた色感も優れている。革の表紙が付いた小さなブックには、哀しみについての幸せなストーリーが潜んでいる。是非、読んでみてください。

笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治

『 i「ロゴス」』

柳 星太 Seita Yanagi(陶芸学科3期生)

2019年度 自主制作部門 卒業制作賞

ロゴスは世界を貫く法則、論理、理性というような意味で、初期ギリシャ哲学の頃から唱えられたもの。
「やわらかいから繋がれて、固くなるから離れられない」
まさに人間のメンタリティーについての指摘だが、それがまた「土の構築→焼成」を内容とする「土から陶へ」という陶芸と名付けられた芸術の根本的性質をも表している。
4穴という原則で作られた輪繋ぎ状の形が5個繋がれている。まず第一個目を「成形→焼成」し固くしてから、第二の4穴輪を第一個目の隣り合った2穴を巻くように手捻りで成形し焼成する。少しずつ大きくなっていくのに合わせて「窯詰めアクロバット」を余儀なくされる。
こうした土の構築、窯詰めなどの知力と体力の合体を駆使した作業はまさにロゴスである。このアトリエでの苦渋に満ちた「土から陶へ」が成立するか否かのギリギリの緊張感が感動を呼ぶのである。

笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治

研究科

『も―pi/chu/mu』

大内 惟裟 Arisa Ouchi(研究科4期生)

2019年度 自主制作部門 卒業制作賞

ふっくらとした柔らかい形。そこに微妙に生ずる凹と凸。それも柔らかい。それを連動するかのように、表面の質感も指で押すとそのままへこみそうな感覚を覚えるほど柔らかい。
日常の何気ない形。それをメモする。天井や壁に現れる様々な形。雲や木々のような自然の形。重要なことは、その様々な外界の対象の中に自分の形を発見するということである。いわば心の形の反映を外界のさりげないものの中に見るということである。それを書き留め、「土から陶へ」のプロセスの中に入れ込んでいく。言い換えると、平面で捉えた心の形を立体に捉え直す。しかもそれは土の構築のプロセスの中にある。まずとっかかりの形を手びねりで作ってみる。するとそこに可能と不可能の振幅が生ずる。形は可能な方へ可能な方へと増殖していく。そして心の形が許容する範囲で形の変貌が刻々と起こっていく。ここが陶の造形、「土から陶へ」の造形のだいご味、一番面白いところである。
ここに自分自身の心の形でもあり、なおかつ土の構築のプロセスの形でもある、両者の融合した、言葉の本当の意味での表現が成立する。

笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治