H29(2017)年度
陶芸学科
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『くらげなす ただよえる』
しもぶくれのなんとなくギャグの精神に満ちた余裕たっぷり感のポット。決してポットと調和を求めていないカップ。その組み合わせがザワっとして落ち着かない、というわけでもない。表情豊かで饒舌で、なのにフッとその中に観る者の心が解放されていく。独特のレリーフ感を持った蓋のフォルムも波の造形感覚ではない。
並ではない感覚で作者は「疲労した夜の覚束なさ」を『古事記』の「九羅下那洲(くらげのように)」という未だ世界がブヨブヨと定まりのない頃と対比させた。眠れないならお茶でも一杯。入れている間に「何かもわからない絵でも見て」「(ブヨブヨと漂う)奇妙な考えから意識をそらす」。「余裕たっぷり感+ザワっと感+分からない絵+並ではない蓋」はしたたかな仕掛けに満ちている。笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治
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『輪と騎手』
立て膝で座す人物の頭に上に何かが積もり重なり、さらにその上に仮面騎手像が乗っかっている。随所に取り付けられた輪形が象徴するのは輪廻転生などとも称される生の無限の繰り返しである。座人はその生の重荷に必死で耐え、いつの日かしび重荷を解き、騎手像のように軽々と飛翔せんとする希望をよすがとする。陶芸的なプロセスを通して、生の営みと造形という作者年来の問題意識が新たな息吹の局面を示した。的確な形のバランス、誇張と省略、デフォルメを駆使した深い精神性を予想させるフォルムを作りだすことに成功した。今後は「土から陶へ」を通すことの意味、その制約からしか生まれ得ないパワーを見出すことが課題である。
笠間陶芸大学校 学校長 金子賢治